「餃子だよ。」の素材を提供
遊牧舎 秦農場
秦寛さん
35年に渡り、畜産試験場や北海道大学で牛や馬の放牧やエサ、飼育環境の研究を行ってきた秦寛さん。定年退職を機に幕別町忠類の離農地へ移り住み、2014年に「遊牧舎 秦農場」を立ち上げました。動物や自然と共に過ごしながら豚本来の暮らしができる牧場を目指し、放牧養豚に取り組んでいます。2020年の秋頃には自作の工房を建て、ハンバーグやメンチボールなどの商品化に向けた試作を始めました。
放牧養豚との出会い
放牧養豚に出会ったのは、10年ほど前の冬に調査で訪れたある農場でのことです。-20度近い屋外で元気に駆けまわる豚の姿を見て驚きました。なぜなら、私はそれまで寒冷環境で豚の生産性を上げる(少ない飼料で豚を成長させる)ため、豚舎を10度以上に保温するよう推奨していたからです。ところが、目の前の豚たちは極めて低い環境下でも元気にすくすくと育っており、それが私の目に新鮮に映りました。
さらに、その牧場では収穫後の畑に豚を放し、収穫残さとなった農作物を豚に食べさせていました。人間が利用できないもの(収穫残さ)を人間が利用できるもの(豚)に転換する。これこそ、家畜の能力を発揮する、本来あるべき畜産の姿だと思いました。
これまでは牛や馬を対象に、放牧を取り入れた飼育について研究を行ってきましたが、中小家畜の豚を放牧かつ配合飼料を使わずに農畜産副産物だけで育ててみたいと思うようになったのは、このときの経験があったからです。
遊ぶたを育てる上で大切にしてきた3つのこと
現代の養豚では、豚は豚舎内で飼育され、軟らかい肉質や早い成長させるために、輸入穀物を主体として配合飼料が給与されています。ですが本来、家畜は人間が食べられないもの、食べ残したものをエサとして飼育され、人間に有用な畜産物を生産する能力を持っていると私は考えています。
そこで、この農場では飼育する豚たちを「遊(あそ)ぶた」と名付け、以下の3点を大切にしながら育てています。まず1つめは、通年放牧で元気に育てること。一般的な豚は生後約半年で出荷されますが、遊ぶたは1年かけて、放牧地で自由に暮らします。2つめが、農畜産の規格外品や副産物を使うこと。農業大国の十勝には多くの副産物があり、十勝産のクズ小麦、クズ大豆、規格外のユリ根、ホエーなどを与えています。これにより、遊ぶたのすっきりとした脂肪の味わいに繋がっています。そして3つめは、豚たちとの触れ合いです。本来豚は人懐っこい動物。農場を訪れた人が彼らに触れ、食べ物以外の体験することで、家畜である前に生き物であることを考えるきっかけになれたらと思っています。
若手社員の熱意から始まった付き合い
数年ほど前に道東製めんの若手社員、神田周也君が牧場を訪ねてきたのが始まりでした。当時、道東製めんはオーガニック野菜などの健康を考えた食材探しに力を入れていて、神田君がうちの遊ぶたに興味を持ってくれたのです。
それをきっかけに道東製めんの創業エピソードを知ったのですが、見ず知らずの土地だった釧路で事業を始めた経緯や旭川ラーメンが太すぎて釧路市民に受け入れられなかった話が非常に面白く、地元の生活に根付きながら商品を作ってきたその姿勢に非常に共感を覚えました。またちょうどその時は、釧路の老舗ラーメン屋「味や」が閉店しようとしている頃で、増田さんたち道東製めんは店を引き継ごうとされていたんですね。「長年地元の人たちに親しまれてきた味がなくなるのは惜しい」と尽力するそんな会社と一緒に面白いことをやっていきたいと思ったのを覚えています。
今は「餃子だよ。」に使う挽肉を卸していたり、遊ぶたに与えるエサとして残った麺を届けてもらっています。2023年度は帯広の製麺会社を引継ぎ、事業展開を推し進めてくと聞いています。ここ十勝で一緒に面白いことをやっていけたら良いですね。