縁もゆかりもない地での創業

道東製めんの歩みが始まったのは1950年代後半。旭川の製麺所で修業を終えた創業者の増田泰三は考えました。「これから旭川や富良野で独立するとなると、同じ製麺所で共に腕を磨いてきた仲間と争うことになる。それならば、より人口の多い場所へ行き、開業してはどうだろうか」。

目を付けたのは、当時漁業で水揚げ全国一を誇っていた釧路。富良野出身の泰三にとっては縁もゆかりもない土地でしたが、漁港の町として勢いのあった釧路でひと旗上げようと決心。1967年(昭和42年)に、道東製めんを創業させました。

創業当時の道東製めん

屋台から始まった道東製めんの「細麺」

当時の釧路は漁港の側に10数軒ほどの屋台がずらりと軒を連ね、たくさんの人で賑わっていたそうです。期待に胸を膨らませて一歩を踏み出した道東製めんでしたが、そこで待っていたのは「麺の地域性」の壁。と言うのも、泰三が修業を積んだ旭川でよく食べられていた麺は、水分が少なく、硬めで太さがありましたが、その頃の釧路では、手打ちに近い軟らかくて細い麺が主流だったのです。食べ慣れない旭川の麺は、釧路の人たちになかなか受け入れられず、屋台の店一軒一軒を営業して回るも、「使えない」「美味しくない」との声を浴びるばかり。「この作り方ではだめなんだ」。旭川ラーメンが釧路で全く通用しないことを知った泰三は、屋台のラーメンを食べ歩き、自分の作る麺に何が足りないのか、どうしたら釧路の人たちにに受け入れられるのかを模索し始めます。

そんな日々を過ごすうち、泰三はあることに気づきます。当時の屋台の客の多くは漁師。遠洋漁業から帰って来た漁師は、またすぐ海へ戻らなくてはいけません。つまり、彼らには時間がないのです。旭川ラーメンのような太い麺だと茹でる時間が長く、屋台では通用しないことに気づいた泰三は、茹で時間を短くする=麺を細くするため、麺の研究を始めます。ここで力を貸してくれたのが、屋台「百番」の店主。店へ熱心に通ううち、「これを参考に研究しなさい。良いラーメンが出来たら使ってあげてもいい」と、麺をひと玉手渡してくれたのです。

細い麺は太い麺よりも切れやすく、腐敗も早く、さらに仕込みにも時間がかかります。泰三は朝一番に出社し、ミキサーの中をのぞいて水分の度合いを測り、生地を帯状にした「麺帯」に触ることを日課としながら、およそ半年もの歳月をかけて、ついに商品化にこぎつけます。こうして、屋台の人たちの協力を受けながら、道東製めんの看板商品「細麺」を完成させたのでした。

気づけば、釧路の製麺会社の中で最も麺の細い商品になっていた道東製めんの「細麺」。これを皮切りに、さらに細く20秒ほどで茹で上がる「雷」や細麺よりも太さのある「中細麺」など、細麺から多くの商品が誕生。道東製めんの基盤が築かれていきました。

伸びにくくて、スープを美味しくする細麺の特徴

道東製めんが手がける麺はすべて、添加物や防腐剤を一切使わない純生麺です。中でも細麺の特徴は主に2つあります。ひとつは「伸びにくさ」。グルテンを作る構造、タンパク質のつなぎ方を泰三が編み出した独自の方法でミキシングすることで実現しました。

ふたつめは、「素材本来の風味を活かした味わい」。良質なタンパク質、灰分を含んだ小麦本来の味がスープに溶け出すことで「スープを美味しくする」麺だと言われてきました。そのカギを握っていたのは、配分や時間に細心の注意を払いながら丹念に作られる昔ながらの製法、そして製造環境です。社屋や製造工場の壁をアルカリ菌や酢酸菌などの菌に侵されないよう特殊な塗料を塗ることで、その味わいを維持しています。

より良い未来を描くために。道東製めんの新たな挑戦

細麺の誕生から56年。今、道東製めんは新たな挑戦へと歩みを進めています。先導するのは二代目社長、増田牧。2011年に二代目社長に就任しました。

その挑戦とは、オーガニックの素材を使った商品開発、流通の拡大です。2020年から本格的に始動し、有機JAS認証を取得した素材を使った麺「オーガニックヤキソバ」「オーガニックうどん」や抗酸化作用のある農作物、放牧豚、オーガニック小麦などこだわりの素材を使った「餃子だよ。」などの商品化に精力的に取り組んでいます。

オーガニックに興味を持つようになったきっかけは、20代の頃に母が末期がんと診断されたことでした。家族と共に最後の手段として取り組んだのは、自然療法。添加物を控え野菜中心の自然に近い食生活に変えた結果、母のガンは次第に回復へと向かい、5年後に完治。この経験から、体をつくる食べ物の大切さを実感したのでした。

「身土不二(しんどふじ)」という仏教用語があります。これは「人と土(環境)は一体で、人の命と健康は食べもので支えられ、食べものは土(環境)が育てている」ことを意味する言葉です。本来土の中に含まれる栄養。それらは微生物を介し、無農薬や自然栽培で育てられたオーガニック食材に多く含まれています。人間はそれらを食べて体内に取り込むことで、腸内環境の改善や血液の好循環、免疫力を向上させ、健康を維持していく。自身の経験から、この考え方を道東製めんの基盤として事業を進めていきたいと考えています。

その一方で、オーガニック以外のものを否定するつもりはまったくありません。食糧危機に瀕する現代の世の中を支えているのは、生産性を保ちながら農作物を供給してきた慣行農業だと考えています。「慣行農業があったから今の豊かさがあるとも言える。その中で、出来る限り化学肥料や農薬を極力減らすような栽培を進めていけたら」。道東製めんとして大切にしていきたいのは、偏らないこと。オーガニック・慣行に限らず何に関しても、誰かを排除するのではなく、互いに協調しながら少しずつ世の中を良い方向へ進めていく。そんな“中庸”の姿勢を持ち続けていきたいと話します。

目指すは、消費者の誰もがオーガニック食材を手に取りやすい未来。そんな未来を見据え、現在最も力を入れているのは、オーガニック農業に取り組む生産者が豊かになる社会の仕組みづくりです。そのためには、オーガニック農業を大規模で進め、低コスト・低価格を実現する必要があると考えています。製麺会社として道東製めんができることは、「その受け皿となる」こと。生産者が丹精込めて育てた農作物の出口となる「流通の仕組み」を築き上げることこそが、道東製めんの担う役割なのです。

「本物の美味しさ」とは、五感を刺激する豊かな味わい。それを口にすることで精神的にも肉体的にも健康になるのです。そんな「美味しさ」を豊かな東北海道の大地から広げていくため、道東製めんは今日もたゆまぬ努力を重ねていきます。